日本各地に存在するさまざまな名所、その中でも、特に多いのがお寺です。
本来は信仰の場でありますが、現代では、宗派など関係なく、気軽にお参りできるお寺も少なくありません。
気ままに訪れて、仏像を拝み、古い建物を眺めながら境内の散策を楽しむ人も増えています。
しかし、何の基礎知識もなくお寺を訪れるのは、少々もったいない。
ちょっとした知識を持つだけでも興味関心はグッと増し、「お寺めぐり」がより楽しめるものとなります。
ということで、寺院について、「仏教と宗派」、「仏像」、「伽藍」(お寺の建物群)に分けてお話ししていきたいと思います。
今回はその第1回。
宗教としての仏教と、日本のさまざまな仏教宗派についてご説明します。
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仏教とは?
仏教とは、インドで悟りを開いた釈迦の教えを、弟子たちが広めたもの。
ただし、日本には、中国を経由して伝来したことから、日本の仏教は、中国仏教の影響を大きく受けています。
仏教における「最終目標」は悟りを開くこと。
「悟り」とは一言で表現することは難しいですが、誤解を恐れずにいえば、「煩悩のない無の境地に入り、物事の真理を極めること」でしょうか。
なお、現代の日本仏教は多くの宗派に分かれていますが、悟りを開くという目標はほぼ同じ。
ただ、悟りについての「考え方」や悟りにたどり着く「アプローチ」が、宗派ごとで異なっていると考えればわかりやすいでしょう。
日本の仏教宗派
日本の仏教宗派は、その成立年代により、大きく3つに分けることができます。
奈良仏教、平安仏教、そして、鎌倉仏教です。
奈良仏教
奈良時代の仏教の一番の特徴は、仏教の力を持って国を護るという思想「国家鎮護」。
簡単に言えば、国や朝廷のための仏教です。
聖武天皇の発願によって大仏が建立された東大寺などは、その最たるものです。
昔は「南都六宗」と呼ばれた6つの宗派がありましたが、現在残るのはそのうちの3つ。
(法相宗)
法相宗(ほっそうしゅう)は、中国唐代の玄奘三蔵(三蔵法師)がインドから持ち帰った教えを起源とする宗派。
興福寺と薬師寺が二大本山です。
(華厳宗)
華厳宗(けごんしゅう)の本尊は、奈良の大仏に代表される毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)。
大本山は東大寺です。
(律宗)
律宗(りっしゅう)は、戒律(僧侶が守るべき規範のこと)に重きを置く宗派。
総本山は唐招提寺です。
平安仏教
次の平安時代の仏教をリードしたのは、最澄(伝教大師)と空海(弘法大師)。
ともに仏教先進国の唐にわたって教えを学んだ両者、帰国後にそれぞれ新しい宗派を開きます。
それが、天台宗と真言宗です。
(天台宗)
最澄(伝教大師)が開いた天台宗。
大乗仏教の主要経典の1つ、法華経に、密教・禅・戒律という、3つのメジャーな修行法をミックスさせた仏教。「総合仏教」的な宗派です。
天台系の主な宗派は次の3つ。
・天台宗:最澄が開いた宗派で、総本山は比叡山延暦寺。
・天台寺門宗:延暦寺からの分派、宗祖は第5代天台座主の円珍。総本山は三井寺。
・天台真盛宗:延暦寺で修行した真盛上人が開いた宗派。総本山は西教寺。
(真言宗)
空海(弘法大師)が開いたのは真言宗。
天台宗が密教を一部取り入れた宗派であるのに対し、真言宗は密教そのもの。
「三密」と呼ばれる修行を行うことにより、大日如来と一体となって悟りを開くことを目標とします。
現代では細かく分派している真言宗、主な真言宗系の宗派は以下の通り。
・高野山真言宗:総本山は金剛峯寺。高野山は弘法大師空海が自ら開いた真言宗の「聖地」。
・東寺真言宗:総本山は東寺(教王護国寺)。東寺は、弘法大師が天皇から下賜されたお寺で、真言宗の「根本道場」。
その他、真言宗御室派(総本山:仁和寺)、真言宗智山派(総本山:智積院)、真言宗豊山派(総本山:長谷寺)などがあります。
(真言律宗)
その他、鎌倉時代に真言宗から分かれた宗派として、真言律宗があります。
真言宗を基礎としながらも、奈良仏教の律宗の思想も多分に含んでいます。
真言律宗の開祖は、鎌倉時代に奈良の諸寺を再興した名僧、叡尊。
総本山は西大寺です。
鎌倉仏教
平安末期から鎌倉時代には、浄土宗・浄土真宗、日蓮宗、禅宗などの新仏教が登場します。
特に大きな広がりを見せたのが、浄土宗や浄土真宗などの浄土系宗派。
戦乱が続き、また、末法思想の広がりもあって、阿弥陀如来の極楽浄土への往生を願う人が増えました。
「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えるだけでよく、密教のような過酷な修行も不要、という浄土系宗派は、その「気軽さ」から、幅広い層に広がりました。
一方で、鎌倉時代以降、貴族に変わる新しい支配階級となった武士層では、禅宗の人気が急上昇。
鎌倉幕府の北条氏や、その後の室町幕府の足利氏は、禅宗(特に、臨済宗)を積極的に保護。
今も、鎌倉や京都には臨済宗の大寺院が数多く残ります。
(浄土系宗派)
浄土系宗派の本尊は、阿弥陀如来。
その教えは、「南無阿弥陀仏」の念仏をひたすら唱えて、阿弥陀如来による救いを求めるというものです。
主な宗派は、浄土宗と浄土真宗です。
・浄土宗:開祖は法然。総本山は知恩院。
・浄土真宗:開祖は、法然の弟子の親鸞。主な寺院は西本願寺、東本願寺など。
(日蓮宗)
開祖は日蓮。法華経をお釈迦さまの正しい教えとし、教義の中心に据えています。
浄土宗や浄土真宗などの浄土系宗派が念仏を唱えるのに対して、こちらは、「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えるのが特徴。
総本山は久遠寺です。
(禅宗)
禅宗の大きな特徴は「坐禅」。
坐禅が、悟りに至る唯一の方法であるとされています。
禅宗の主な宗派としては、臨済宗(りんざいしゅう)と曹洞宗(そうとうしゅう)があります。
・臨済宗:坐禅と公案(師との禅問答)によって悟りを開くという宗派。
室町時代には幕府に手厚く保護される一方で、五山制度(京都五山・鎌倉五山)で寺格が定められました。
主な寺院は、京都の南禅寺、天龍寺、建仁寺、東福寺や、鎌倉の建長寺、円覚寺など。
・曹洞宗:臨済宗よりもさらに坐禅を重んじる宗派。
その教義は、ひたすら坐禅することで悟りに至るというもの。
永平寺と總持寺が二大本山です。
江戸以降の宗派
日本の仏教宗派は鎌倉時代までに成立したものが多いのですが、江戸時代に開かれた宗派もあります。
その1つが、黄檗宗(おうばくしゅう)。
開祖は、江戸時代、中国(明)から日本にやってきた隠元。
明代中国の臨済宗を基礎とする宗派です。総本山は萬福寺。
なお、鎌倉時代に成立した日本の臨済宗も、元はと言えば中国の臨済宗が基礎となっています。
ただし、江戸時代の成立で中国風が色濃く残る黄檗宗。
仏堂の建築様式など、日本の臨済宗とは異なる点も多いです。
まとめ
・日本の仏教には、中国仏教の影響が色濃く残る
・奈良仏教は「国家鎮護」
・平安時代に開かれた天台宗と真言宗
・鎌倉時代以降に盛んになった、浄土系宗派と禅宗
・江戸時代に遅れて成立した黄檗宗は中国風
次回の「寺院について(仏像編)」では、お寺のさまざまな仏さま(仏像)についてご説明します。