織田信長が本拠とした琵琶湖東岸の安土。
しかし、この安土には、安土城以前から存在する、歴史ある名所も数多く残ります。
その1つが、今回ご紹介する桑實寺(くわのみでら)。
安土城跡の南、繖山(きぬがさやま)に残る古刹で、現在は天台宗のお寺です。
天智天皇勅願、武家との関係も深い古刹
桑實寺の歴史は古く、天智天皇の勅願、藤原(中臣)鎌足の息子・定恵の創建と伝わります。
中世以降の武家の時代でも、時折、歴史に登場します。室町時代の末期には、京を終われた足利将軍がここに仮幕府を置いたこともありました。

また、安土城の織田信長との絡みもあり。
例えば「竹生島事件」。信長が竹生島へ出かけている間に、無断で桑實寺へ参詣した安土城の女中たちが一斉処罰された事件です。
配下の怠慢を許さない、信長の峻厳な性格をよく示すエピソードです。
桑實寺の境内見どころ
安土にある繖山(きぬがさやま)は標高433mの小高い山。
その山頂付近には西国三十三所の三十二番札所、観音正寺があります。
一方、桑實寺は、この繖山の中腹、西の山麓から観音正寺へ向かう途中にあります。

長い石段
桑實寺の境内入口は、繖山の西麓にあります。目の前には、まっすぐ先へ、延々と続く長い石段。
少し登ると山門が見えてきますが、そこはまだ序の口。その先、まだまだ石段が続きます。

山門をくぐってさらに石段を登り、左手に小さなお堂が見えてきたら、参道もようやく後半。もうひとがんばりです。
なお、この小さなお堂は地蔵堂。江戸時代中期、1769年の再建です。

本堂
ずっと直線的にのびていた石段が左へ曲がりはじめると、ようやく終点です。
石段の先、正面に大きな建物が見えてきます。これが、桑實寺の本堂です。

桁行(正面)五間、梁間(奥行)六間のどっしりとした重量感ある本堂。
室町時代初期(南北朝時代)の建築で、国の重要文化財に指定されています。
本堂内の拝観もできます。内陣には、ご本尊の薬師如来、脇侍の日光菩薩・月光菩薩など、数多くの仏像が安置されています。

その他のお堂
本堂周辺はそれほど広くはありませんが、他にも古い建築物がいくつか残されています。
例えば、本堂の横に立つ鐘楼。江戸時代前半の1644年の建立です。

境内の奥の高い位置に立つ大師堂(経堂)は、もとは、織田信長による建立。
ただし、明治時代末期に大破し、現在のものは大正期の再建です。

なお、大師堂のそばから桑實寺の境内を抜けると、繖山の山頂へと向かう道が奥へとのびています。
道の先は、六角氏の居城・観音寺城の跡、さらには、観音正寺へと続いています。
桑實寺の基本情報
住所:滋賀県近江八幡市安土町桑実寺292
開門時間:午前9時~午後5時(冬期は午後4時閉門)
拝観料:大人300円 小人150円
アクセス:(JR)安土駅から山麓まで徒歩30分、さらに石段を登ること30分
駐車場:有(山麓に5台)