今回ご紹介するのは、奈良の興福寺。
近隣の東大寺などとともに、奈良を代表するお寺の1つです。
名族・藤原氏ゆかりのお寺で、南都七大寺の1つにも数えられました。
藤原氏ゆかりのお寺
興福寺の前身は、天智天皇の時代に、現在の京都山科の地に建てられた山階寺(やましなでら)。藤原(中臣)鎌足夫人が、夫の病気平癒を祈って建立したお寺です。
その後、お寺は藤原京へ移り、さらに、710年の平城京遷都に従って現在地に移転。鎌足の息子・藤原不比等により興福寺と名付けられました。
古代~中世にかけて、朝廷で絶大な権勢を誇った藤原氏。
その藤原氏の氏寺とされた興福寺、同じく藤原氏とのゆかりの深い春日大社とともに、手厚く保護され栄えました。

門も塀もない、開放的な境内
現在の興福寺は、緑あふれる奈良公園に接しています。
また、これほどの大きなお寺には珍しく、境内やその周囲に門や土塀などがほとんどありません。開放感あふれる空間です。
奈良公園の鹿たちも気軽に境内にやってきて、観光客と戯れる姿もよく目にします。

現在の興福寺境内に塀がない理由の1つは、今の奈良公園の大部分が、興福寺の旧境内であったため。
繁栄を極めた当時の興福寺は、今とは比べものにならないほど広い寺領を保有していました。
しかし、明治の神仏分離令を発端に、日本全国で、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の嵐が吹き荒れると、興福寺も大打撃を受けました。
寺領は没収、建物は壊され、五重塔や古い仏像も売りに出される始末。そのときに失った境内地の一部が、今の奈良公園です。
現在も奈良公園内には、旧興福寺の境内であった時代の土塀が、半ば崩れながらも残されています。

興福寺の境内見どころ
かなり境内を縮小したとはいえ、それでもかなりの広さを誇る興福寺の境内、古い建築物や仏像などの文化財が数多く残されています。
その中でも特に注目のスポットをご紹介します。
なお、興福寺の境内は拝観自由(入場無料)。また、境内の中金堂・東金堂・国宝館の内部は、一般公開されています(内部拝観は有料)。
中金堂
古代の興福寺には、中金堂・東金堂・西金堂の3つの金堂がありました。
中心となるのは中金堂ですが、江戸時代中期に失われてから300年近くも、中金堂のない状態が続いていました。
しかし、2018年(平成30年)、新たな中金堂が落慶。この中金堂には、他のお堂から移された多くの仏像が安置されています。
堂内中央には、興福寺本尊の釈迦如来坐像。その左右には、薬王菩薩と薬上菩薩の立像。ともに3.5mを超える大きな像です。
また、以前は、南円堂に置かれていた四天王像も中金堂に移されました。

東金堂
昔の三金堂のうち、唯一、残されていたのが東金堂。室町時代中期の1415年の再建で、国宝に指定されています。
東金堂の堂内にも、薬師三尊像や四天王像など貴重な仏像が安置されています。これらはすべて国宝あるいは国の重要文化財に指定されています。

五重塔
東金堂の隣には、五重塔が立っています。
奈良公園内はもちろん、若草山など周辺各地からも見えるこの塔は、東大寺大仏殿と並ぶ、古都奈良のシンボルです。
現在の五重塔は、室町時代中期、1426年の再建。国宝指定。
また、この五重塔の高さは約50m。木造の古塔としては、京都・東寺の五重塔に次いで二番目に高い塔です。
(注)現在、五重塔の保存修理工事が行われており、外から見ることはできません。

北円堂
境内の北西に立つ北円堂。「円」とは言うものの、実際には八角形の形をした「八角円堂」です。
元は藤原不比等の一周忌に建てられたお堂。ただし、現在のものは鎌倉時代初期の再建です。国宝指定。

三重塔
興福寺の境内には、五重塔だけでなく、三重塔も残ります。
五重塔よりも古く、鎌倉時代前期の建築物です。国宝指定。
上の北円堂とともに、現在、興福寺に残る建物の中で最も古い部類に入ります。
五重塔よりも小ぶりではありますが、塔の高さと屋根の大きさとがうまく調和した、美しい塔です。

南円堂
境内の南西にある南円堂は、北円堂と同じく八角円堂。
ただし、現在の南円堂は、北円堂よりは年代は新しく、江戸時代中期、1741年の再建。国の重要文化財指定。
堂内には不空羂索観音坐像や四天王像などを安置、西国三十三所観音霊場の第九番札所でもあります。
また、このお堂の周囲の藤は、藤原氏を象徴する花。ここの藤は、南都八景の1つにも選ばれています。

国宝館
国宝館は、興福寺の寺宝を展示する宝物館です。
仏像を中心に、国宝や国の重要文化財に指定されている貴重な文化財を多数展示。
3つのお顔に6本の腕(三面六臂)、しかし、少年のような優しい顔立ちが人気の阿修羅像も、ここで見ることができます。

猿沢池と興福寺
五重塔をはじめとする、古い建築が残る興福寺。
境内を巡るだけでなく、少し離れた位置から眺めるのもなかなかよいものです。
おすすめは、興福寺境内の南側に広がる猿沢池(さるさわいけ)。南側から池越しに眺める五重塔は、奈良を象徴する風景の1つです。
天気のよい日には、池の中島で多くの亀がのんびりと甲羅干し。興福寺や奈良公園の散策で疲れたときの休憩にも、ちょうどよい場所です。

興福寺の基本情報
住所:奈良県奈良市登大路町48番地
拝観時間:9:00~17:00(年中無休)
拝観料:中金堂・東金堂・国宝館は常時公開
(中金堂)大人500円 中高生300円 小学生200円
(東金堂)大人500円 中高生300円 小学生200円
(国宝館)大人900円 中高生800円 小学生500円
(3カ所共通券)大人1600円 中高生1100円 小学生600円
アクセス:近鉄奈良駅より徒歩5分
駐車場:有
ホームページ:法相宗大本山 興福寺