仏教の宗派、仏像(その1、その2)ときて、寺院編もこれが最終回。最後は伽藍(がらん)についてお話しします。
伽藍とは、お寺の境内にある建物群のこと。
豪壮な山門に、重厚な仏堂、そして、美しい仏塔。
古風な寺院建築を眺めながら境内をひとめぐり。これも、寺院参拝の楽しみの1つです。
伽藍を構成する建築物
宗派や建立時期、規模などにもよりますが、お寺の境内には次のような建物があります。

門
門は、塀で囲まれた境内への入口。
しかし、一口に門といっても、造りや用途、形式などによって、さまざまな名称の門があります。
正門(山門)
正門はお寺の正面入口。
呼び名はお寺によってさまざまですが、一般には、山門と呼ばれることが多いです。
二階建ての門や八脚門形式の立派な門は、特に、大門とも呼ばれます。
方角で呼ばれることもあります。東大寺や法隆寺など、多くのお寺では正門が南を向いていることから、南大門が多いです。
また、大門の左右に、金剛力士(仁王)が立つ場合は、仁王門とも呼ばれます。

三門
二階建て&二層屋根の巨大門は、特に、三門と呼ばれます。
禅寺以外の三門形式の門としては、知恩院の三門、東本願寺の御影堂門が有名です。

勅使門
格式の高い寺院などで、普段は閉じられている門を見かけることがあります。
この門は勅使門(ちょくしもん)。
天皇や朝廷からの使者(勅使)が訪れたときにだけ開門されたことから、このように呼ばれます。

手水舎
手水舎(てみずしゃ・ちょうずしゃ)は、参拝者が手を清める場所。
たいていは、正門をくぐった先や本堂の近くにあります。境内に入ったら、本堂へお参りする前に、まずここで手を清めましょう。
なお、お寺での手水の作法は、神社の場合と同じです。

本堂(金堂・仏殿)
本堂は、お寺のご本尊の仏像が祀られるお堂。お寺の中で最も重要な建物です。
お寺によっては、違った名前で呼ばれている場合もあります。
例えば、唐招提寺や薬師寺など、創建年代の古いお寺では、金堂と呼ばれることが多いです。
また、臨済宗などの禅宗寺院では、仏殿と呼ばれます。

仏塔
仏塔は、本来は、仏舎利(ぶっしゃり)と呼ばれる、お釈迦さまの遺骨や遺灰を納める建物です。
ただ、お釈迦さまの遺骨など、そう手に入るものではありません。
そこで、多くの塔では、仏舎利の代替品として、仏教の教典や宝物などが収められています。
五重塔
日本の仏塔としては、五重塔が最も有名です。
すらりと延びた塔身と5つの屋根の広がりのバランスが美しい五重塔は、お寺のシンボル。
日本各地のお寺に立つ五重塔、その一部は、国宝にも指定されています。
現存する木造の五重塔の中で、建築時期が最も古いのは、奈良斑鳩・法隆寺の五重塔。
一方、最も高いのは京都・東寺の五重塔です。

三重塔
仏塔には、三層屋根の三重塔もあります。こちらも、年代の古いものが数多く残されています。
現存最古とされるのは、奈良斑鳩・法起寺の三重塔です。

多宝塔
多宝塔は二重の塔。ただし、五重塔や三重塔とは違った特殊な形をしています。
塔の平面形状は、下層は正方形ですが上層は円形。
また、上下二層の間に、白まんじゅうのような部分(亀腹)があるのも特徴です。
多宝塔は、密教を基盤とする真言宗のお寺に多い塔で、塔内に大日如来が祀られていることが多いです。
日本の多宝塔の中で、現存最古とされるのは、石山寺の多宝塔です。

講堂(法堂)
講堂は、お坊さんが仏教の講義を行うためのお堂で、本堂に次いで重要な建物です。
重要な仏事が行われることも多く、たくさんの人を収容する必要があるという観点からも、一般に講堂は大きな造りとなっています。

なお、講堂は、臨済宗などの禅寺では法堂(はっとう)と呼ばれます。
また、お寺によっては、本堂(仏殿)と講堂(法堂)の一方しかない場合があります。
その場合には、1つのお堂が、本堂と講堂の2つの役割を兼ねていることも多いです。

鐘楼と梵鐘
鐘楼は、梵鐘(ぼんしょう)をつり下げるための建物。
一定時間おきに梵鐘をつき、お寺やその周辺に時刻を知らせます。
梵鐘は金属(主に青銅)製で、木造の建築物と違い焼失しにくいため、奈良時代や平安時代など、古い年代の鐘がよく残されています。
名鐘として知られる古い鐘は、平等院、三井寺(園城寺)、東大寺、神護寺、知恩院、方広寺(京都・豊国神社横)など。
特に、平等院鐘、三井寺鐘、神護寺鐘の3つは、「日本三名鐘」と呼ばれることもあります。

庫裏・方丈
庫裏(くり)と方丈(ほうじょう)は、ともに、禅宗のお寺でよく見かける建物です。
庫裏(庫裡)
大きな切妻屋根の三角形の妻面が特徴的な庫裏。
どのお寺でも同じような形をしており、禅寺を象徴する建物の1つです。
庫裏は、本来は、お坊さんが食事をする場所ですが、現在では、寺務所や拝観受付として使用されることも多く、一般の参拝者にもなじみのある建物です。

方丈
方丈は、お寺の住職の住居として使われた建物です。
大きな禅寺の方丈では、畳敷きの広い部屋がいくつもあり、それぞれに立派な襖絵が描かれています。
また、美しい庭園があるのも方丈の特徴。
方丈庭園は、水を使わず、石や砂で風景を表現する、枯山水の庭園であることが多いです。

御影堂・開山堂
お寺によっては、宗派の開祖やお寺の開山となった人物を祀るお堂もあります。
それが、御影堂や開山堂です。
御影堂
御影堂は、宗派を興した宗祖の像(御影)を祀るお堂です。
「総本山」や「大本山」と呼ばれる大寺院クラスに多く見られます。
お寺によっては、ご本尊を安置する本堂と同等か、それ以上に重要視されるお堂です。

なお、御影堂の読みは宗派や寺院によって異なります。
浄土宗では、知恩院では“みえいどう”、西山浄土宗の光明寺では”みえどう”。
一方、西本願寺や東本願寺などの浄土真宗では、”ごえいどう“と呼ぶのが普通です。
また、真言宗の東寺では“みえいどう”です。
なお、真言宗系寺院の御影堂は、真言宗の宗祖・弘法大師(空海)の像を祀るお堂であることから、「大師堂」と呼ばれることもあります。
開山堂
一方、お寺を創建した人物(開山、あるいは、開基)の像を祀るのが、開山堂。
こちらは、比較的小さなお寺でも見られます。
また、一度荒廃したお寺を建て直した人物、いわゆる「中興開山」の像が祀られている場合もあります。

まとめ
・造りや用途などによっていろんな名称の門がある(大門・三門・勅使門)
・本堂お参りの前に手水舎で手を清める
・ご本尊の仏像を祀る本堂は、一番重要な仏堂
・日本でメジャーな仏塔は、五重塔・三重塔・多宝塔
・講堂(法堂)は本堂に次いで重要で、大きなお堂
・金属製の梵鐘には、古いものが残る
・禅寺でよく見かける、庫裏と方丈
・宗派の宗祖を祀る御影堂、寺院の創建者を祀る開山堂
伽藍についての基礎知識を頭に入れておくと、寺院の参拝がさらに有意義なものとなりますよ。